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■松村教授の簡単クリケット講座

 

たけし :
試合はどうやって始めるんですか?
松村教授:
まずコイントスでフィールディングとバッティングの先攻、後攻を決めて、フィールディング側が守備位置についた後に、バッツマンの最初の2人、つまり打順の1番と2番だがね、がピッチ上に立つんだ。そしてアンパイアのコールによって試合は始まるんだよ。
あきこ :
最初に2人も打者が出るんですか!?
松村教授:
このスポーツは2人のペアで得点を重ねていくんでね。“バッツマン”って英語でBATSMANって書くんだけど、それはバット(BAT)に複数形のSがついたバッツ(BATS)からきているんだ。つまり必ず2人のバットを持った選手がピッチの上にいるんで、合計で2本のバットがあるってことなんだ。
たけし :
そうそう、このスポーツってどんなところでやるんですか?
松村教授:
本来は大きな芝の生えた楕円形のグラウンドで行われるんだけど、みんながやるときには大きさは人数やレベルにあわせて大きさは変更して構わないから。芝が生えているところも少ないしね。
あきこ :
本当は何人でするのが正式なんですか?
松村教授:
11人だよ。だからサッカーと同じように選手のことを「イレブン」って呼んだりするんだ。
たけし :
クリケットのボウラーは野球のピッチャーと同じなんですか?
松村教授:
いや、全然違うよ。野球では一人のピッチャーが最初から最後までずっと投げることができるよね。しかしクリケットではそれができないんだ。なぜかというとクリケットには「オーバー」という投球単位があるんだ。
たけし :
えっ?「オーバー」ですか?
松村教授:
まあそんな焦らないで。クリケットでは6球を1オーバーって呼ぶんだけど、ボウラーはこの1オーバーしか1度には投げられないんだ。1オーバー投げると次のボウラーと交代する。ここが野球とは全然違う点の1つだね。でもその次にまた投げることはできるけどね。つまり最低2人のボウラーがいればその2人が交互に投げるってわけだね。ここは図を使ってわかりやすく説明してみよう。

右側から最初のボウラーが1オーバー(6球)投げます。このとき、ワイドボールやノーボールは1球に数えません。

1オーバーを投げ終わったら、今まで投げてたボウラーは守備について、次のボウラーが新たに左側のウィケットから投げます。

それにともないウィケットキーパーも左側から右側に移動します。尚、バッツマンは移動しません。
松村教授:
それと野球と大きく違う点は、ボウラーは肘を曲げて投げてはダメっていうルールがあることかな。曲げて投げると対戦相手に1球につき1点あげてしまうんだ。ちなみに曲げて投げないことを「ボウリング」って言うんだよ。肘を曲げて投げるとそれは「スロウイング」って呼ばれるんだ。野球の守備なんかがそうだよね。
たけし :
へぇ〜、知らなかったなぁ〜
あきこ :
私も知らなかったです。勉強になりました。
松村教授:
それと速球派投手、ファストボウラーって言うんだけど、そのボウラーは走り込んできて勢いをつけて投げこむんだよ。これも野球のピッチャーとは大きく異なる点だね。
あきこ :
ありがとうございました。では次はバッツマンについて教えてください。クリケットのバッツマンは野球のバッターと同じなんですか、なんて聞くときっとまた何か言われそう。
松村教授:
そうだね、どうしても野球と比べがちだけど、打者と投手と野手がいるっていう点はクリケットも野球も同じだけど、それ以外、つまり投げ方や打ち方、点の取り方、その全てが全く違うからね。
たけし :
そうなんですか〜、つい身近な野球と比べてしまいますよね。
松村教授:
それは仕方が無いよ。クリケットは身近じゃないからね。それじゃ基本的に攻守の概念が違うって話をしておこうか。野球と比べた方が理解しやすいようだから野球に例えて話していこう。野球だと打者側は“攻めている”側で、投手含めて守備している側が“守っている”側って言うよね。
あきこ :
はい、普通はそうだと思います。
松村教授:
普通は、じゃなくて野球ではそうなんだけど、クリケットではその攻守が逆なんだよ。
たけし :
え!どういうことですか?
松村教授:
このスポーツはウィケットの攻防にあるんだ。ピッチの両サイドに刺してある3本の棒のことだけど、このウィケットについてはもう知っているよね。
あきこ :
はい、知ってます。
たけし :
3本のスタンプに2つのベイルを乗せたものですよね。
松村教授:
そうだね。で、簡単に言ってしまうと、このウィケットにボールがあたるとアウトになるんだ。つまりボウラー含めたフィールダーの11人は全員でこのウィケットを倒すために“攻めている”んだよね。そして2人のバッツマンはこのウィケットにボールがあたらにようにバットで“守っている”ってわけだ。ここが野球の攻守の概念とは違って全く逆さまなんだよね。
たけし :
へぇ〜、驚いたなぁ〜
あきこ :
じゃ、どうやって点を取るんですか?
松村教授:
だんだん興味が沸いて来たって感じかな。よろしい、じゃ引き続き説明をしよう。バッツマンは説明したようにウィケットをボールから守る事が第1目標だから、逆に言えばあたらなきゃ何回空振りしてもいいんだ。野球は3回の空振りでアウトになるけどね。
あきこ :
何回空振りしてもいいんですか?
松村教授:
そうだよ。でもその代わり空振りしてウィケットにあたってしまったらアウトになってしまうわけだ。そしてその人の打撃はそれで終了。野球のように1試合で何回も打順は回って来ないんだ。
たけし :
次の打席で挽回だ!ってできないんですね。
松村教授:
そういうこと。次の打順は次の試合か翌日になるね。
たけし :
それってどういうことですか?
松村教授:
話しがあっちこっちに飛んでしまうとややこしくなるので話を元に戻して順番にいくよ。とにかく何回空振りしてもOK、但し、1度でも空振りしてウィケットにボールがあたったらアウト、ここまでは大丈夫だね。
あきこ :
はい。
たけし :
大丈夫です。
松村教授:
次に、ボールを打った場合、あるいはバットにボールがかすった場合はどうなるか、って話しにはいるね。野球で言うバントのようにバットにボールがあたって自分の前方にちょろちょろってボールが転がった場合、野球ならファウルにならない限りは1塁に向かってアウトになるであろう事を覚悟して走るよね。クリケットは何度も言うようにウィケットを守ることが1番なんで、ボールを遠くに弾き飛ばすことが1番じゃない。だから走ってもアウトになることがわかりきっているような打球の場合は走らなくていいんだ。
あきこ :
走るってどこに向かって走るんですか?
松村教授:
あっそうか、それを忘れてたね。2人のバッツマンは打った場合は双方反対側のウィケットに向かって走るんだ。お互いが無事反対側のウィケットに行けてこれで1点になるんだ。往復して2点になるわけ。そしてボールが返球されてくるまでの間に何往復しても構わないんだよ。反対側に辿りつく前にウィケットに返球されたボールがあたってしまったら、倒された側に向かって走っていた人がアウトになる。
たけし :
ちょっと待ってください、じゃどういう場合に走るんですか?
松村教授:
クリケットには野球と違ってフェアやファウルがなく、360度どこに打っても構わないんだ。だから野球で言うファウルチップのようなキャッチャーの後ろに飛んでいったような打球でもOKなんだよね。バンって打って、走ってもアウトにならない方向、フィールダーとフィールダーの間を抜けていったとかね、そういう時に走り出すわけ。さっきのバントの話しのように打球の勢いや方向を見て、「これは走ってもアウトになりそうだ」と判断したときは、あえて走らず、次のボールを待つことができるんだ。これがクリケットの大きな特徴だね。
あきこ :
ではアウトにならなければ、ずっと打ってていいんですか?
松村教授:
いいんだよ。そして基本的にはバッツマンが全員アウトになるまで続くんだ。このスポーツは2人1組のパートナーシップで点数を稼ぎ出すんだよね。つまりそのコンビのコミュニケーションが悪かったら全然ダメなわけ。片っ方だけ走り出して片っ方が動かないとかね。
たけし :
なるほど。
松村教授:
そしてアウトになったバッツマンは次のバッツマンと交代する。つまり新たなコンビでやるわけだ。最初は1番打者と2番打者で始まって、もし1番がアウトになったら今度は2番と3番のコンビになるんだね。順当に行けば最後は10番と11番のコンビになるよね。そこで10番がアウトになったら11番のパートナーがいないんで、そこで初めて攻守が交代する。つまりここで1回の表が終わるわけだ。
あきこ :
それじゃ10アウト交代ってわけですね。野球は3アウト交代だけど。
松村教授:
そうだよ。
たけし :
打っても走らなくてもいいわけだし、何回空振りしてもOKってことはその10アウトになるのに物凄く時間がかかりますよね。
松村教授:
レベルにもよるけど、半日とか1日とかね。もっとかかるときもある。だから試合中にティータイムやランチタイムが入るんだよね。
たけし :
それは驚きですね。それをいったい何回までやるんですか?野球のように9回までやったら大変な時間がかかりますよね。
松村教授:
伝統的なテストマッチだと2回の表裏、つまり2イニングマッチなんだ。まぁこれでだいたい5日間かかるね。しかしそれでは試合が長いってんで最近はゲーム方式もかわってきているんだよ。1イニングのゲーム、ワンディゲームって言うんだけど、試合のオーバー数を制限するやりかたでワールドカップを始め現在はこの方式が多く行われるようになったね。
あきこ :
そのオーバー数ってさっき教えてもらった6球1セットのことですか?
松村教授:
そうだね。このオーバーリミティッド形式って最初から投球数を決めて行うゲーム方式なんだけど、例えば50オーバーゲームって言うと50×6球、つまり300球を投げ終わったらその時点で何人アウトになっていようが、打順が何番まで周っているとかと関係無く強制的に1回の表が終了するってやりかたなんだ。でもちろん決められたオーバー数の中で全員アウトになったらその時点で攻守交代だけどね。この方式だと時間の目途が立つってわけだよね。まぁだいたいそれでも朝から夕方までかかるけどね。
あきこ :
もう1度アウトに関して教えてください。えっと、空振りしたらアウトと、走ってアウトになるのがありましたね。
松村教授:
空振りしてアウトは「ボウルド」って呼んで。走ってアウトは「ランナウト」。それ以外に野球と同じくフライをノーバウンドで取られたらアウト。これは「コウト」って呼ばれるんだ。この3つが代表的なアウトだね。
たけし :
点は地道にウィケットの間を2人のバッツマンが走って取る以外には無いんですか?
松村教授:
いやいや他にもあるよ。このスポーツはグラウンドの境界線をバウンダリーって呼ぶんだけど、そのバウンダリーをノーバウンドで打球が越えたら1度に6点入るんだよ。野球で言うところのホームランだね。打球がゴロ等でバウンダリーを越えたら1度に4点入るんだ。ちなみにこのスポーツは点数のことを「ラン」(走るの意味)って言うんだよ。1ラン、2ランってね。
あきこ :
なんだかいっぱい点数が入りそうですよね?
松村教授:
そうだね、アウトになるまでどれだけでも打っていられるから、1人で100点以上の点数を取る人もいるんだよ。
たけし :
どうやって勝敗は決まるんですか?
松村教授:
そりゃもちろん最終的にたくさんランを取った方が勝ちってわけ。
あきこ :
クリケットっていうのは野球と比較されがちですけど、やっぱり違うところはたくさんあるんですね。勉強になりました。
たけし :
僕もです。教授の説明でクリケットがちょっとずつ分かってきました。早く僕もグラウンドでクリケットしてみたいなあ。